2013年7月8日月曜日

第2次世界大戦後、フランスで最も売れた小説がアルベール=カミュの『異邦人』である理由

第2次世界大戦後、フランスで最も売れた小説がアルベール=カミュAlbert Camusの『異邦人』L'Étrangerである。

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Aujourd'huimaman est morteOu peut-être hierje ne sais pas.
今日、母ちゃんが死んだ。あるいは、たぶん、昨日かもしれないけど、私にはわからない。
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こんな冒頭(ぼうとう)なのである。

梗概(こうがい=あらすじ)にしても、こんな感じだ。

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母親の葬儀(そうぎ)では悲しむ様子を見せず、その翌日には女性と情事に耽(ふけ)り、友人のいざこざに巻き込まれて、アラブ人を射殺し、殺害の理由を「太陽のせいだ」と答え、死刑判決を受け、死刑の場で人々から罵声(ばせい)を浴(あ)びせられることを期待する。
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いわゆる不条理文学(ふじょうりぶんがく)である。

私自身は、こういうものは嫌いではない。若いころには、アルベール=カミュのほかにも、フランツ=カフカFranz Kafkaの小説やウジェーヌ=イヨネスコEugène Ionescoやサミュエル=ベケットSamuel Beckettの不条理演劇の台本を原書で読んだりしていた。

とはいえ、自分が好きだからといっても、こうしたものが一般受けするとは思えない。どうにも不思議だった。

あるとき、フランス人とフランス語圏のスイス人に訊(たず)ねてみた。答えは簡単だった。

課題図書になっているから。

これは、夏目漱石(なつめそうせき)の『こころ』と同じだ。新潮文庫の8月の売り上げ1位は毎年、『こころ』である。その理由は、夏休みの感想文の宿題となっているからだ。

とはいえ、アルベール=カミュの『異邦人』が課題図書になるのは、短い小説でありながら、多様(たよう)な解釈が可能だからであろう。

そういえば、黒澤明監督の『羅生門(らしょうもん)』も、私と同年代の複数のフランス人によると、学校での映画上映会で観賞(かんしょう)したという。この映画も多様な解釈ができるものである。

どうやら、フランス人は解釈の多様性のある芸術作品が好きらしい。

なお、日本人の感覚では実感できないのだけれど、アルジェリアを殖民地としていた当時のフランスでは、アラブ人を殺しても、罪には問われなかった。

殖民地では、家畜を殺したようなものだった。

だから、出版当時のフランス人の感覚からすれば、殖民地の人間を殺したからといって、死刑になるというのはまさに「不条理」であったのである。日本人には逆立ちしても気がつかない不条理さである。

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早稲田大学第一文学部哲学科哲学専修卒業、「優」が8割以上で、全体の3分の2以上がA+という驚異的な成績でした。大叔父は競争率180倍の陸軍飛行学校第1期生で、主席合格・主席卒業にして、陸軍大臣賞を受賞している。いわゆる銀時計組であり、「キ61(三式戦闘機飛燕)の神様」と呼ばれた男である。苗字と家紋は紀州の殿様から授かったものである。

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