2009年7月29日水曜日

公立学校選択制は学力向上につながるか?

 公立学校選択制は学力向上につながるのかという問いがある。
 結論は、つながらない、である。

 最大の理由は、保護者の大半には、適切な選択を行なうための情報がないからである。情報がないというよりは、むしろ、「情報を集めることができない」と言ったほうがよいだろう。
 実際、東京都23区のそれぞれの区での人気のある区立中学校を調べると、「どうしてここがこれほどの人気があるのか?」と疑問に思う中学校が人気の上位にある場合が多く見かけるが、そうした場合には、校舎が新築されたばかりであるなどが多い。
 教育の中身で選んでいないのである。その程度の基準で区立中学校を選んでいる保護者が多いようだ。学校選択制であっても、選択する側に明確な選択基準がないようだ。むろん、公立中学校の場合、私立とはちがって、わかりやすい特色が打ち出しにくいところはあるけど。

 つぎに、理由として挙げられるのは、有名私立中学への合格者が多い小学校、あるいは、難関高等学校への進学者が多い区立中学校に進学させても、家庭環境がよくなければ、よい影響はあまり期待できないからである。
 ここで「家庭環境」と表現したものを、ピエール=ブルデューPierre Bourdieuというフランスの社会学者はハビトゥスhabitusと呼んだ。habitusは「文化資本」と訳されることもある語だ。ハビトゥスとは、上品で正統とされる文化・教養・習慣の総体である。
 難関大学に進学する学生は裕福な家庭の子である割合が高い。私が学部生であったとき、保護者の平均年収が最も高いのは東京大学の学生であり、そのつぎは早稲田大学であった(慶應義塾大学の学生の保護者の場合、適切な節税をしているらしい)。
 単なる金持ちの子どもが難関大学に進学するわけではない。これは、早慶以上の大学に進学した者であれば、充分に実感しているだろう。
 ピエール=ブルデューは、むしろ、ハビトゥスを備えた家庭出身者ほど高学歴になりやすいということを統計的に証明している。
 文化資本(ハビトゥス)を保有していなければ、公立学校選択制によって、進学する小学校・中学校を選べたとしても、それほどたいした違いは生じないだろう。
 いや、東京では、むしろ、ハビトゥスを保有するする家庭は、中学受験で一定レベル以上の私立中学校に進学させるので(東京都23区での私立中学校進学者は15%くらい)、場合によっては、どの公立中学校を選んでも、ほんの少しの差しか生じない。
 なお、学力の高い公立中学校はあるが、学区内に一流企業の社宅のある場合が多く、その中学校の高学力は一流企業勤務のサラリーマンの子弟が底上げをしているのであって、そこにごく普通の家庭の子どもを入れたからといって、それほど学力が向上する契機(けいき)となるわけではない。

 保護者(親)が若いときに勉強をしており、文化・教養を身につけていなければ、少々のことでは、子どもの学歴が大きく変化することはないということだ。
 もちろん、例外はあるが、それはあくまでも例外にすぎない。

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和歌山県, Japan
早稲田大学第一文学部哲学科哲学専修卒業、「優」が8割以上で、全体の3分の2以上がA+という驚異的な成績でした。大叔父は競争率180倍の陸軍飛行学校第1期生で、主席合格・主席卒業にして、陸軍大臣賞を受賞している。いわゆる銀時計組であり、「キ61(三式戦闘機飛燕)の神様」と呼ばれた男である。苗字と家紋は紀州の殿様から授かったものである。

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