2009年3月11日水曜日

高校英語教科書UNICORN(ユニコーン)に関わる出版元の営業戦略

 文英堂という出版社がUNICORNという教科書を発行している。発行しているのは、つぎのもの。

 UNICORN ENGLISH COURSE I
 UNICORN ENGLISH COURSE II
 UNICORN ENGLISH READING
 UNICORN ENGLISH WRITING

 文英堂はほかにもPOWOWやSurfingやBirdlandという教科書を発行しているが、UNICORNほどメジャーにはなれずにいる。Birdlandは難しすぎるので、生徒のレベルがよほど高くないと採用できないらしい。

 文英堂のUNICORNの「営業上のセールスポイント」は、教師用指導書(教師用マニュアル)を、高校の英語教師以外の一般の人には絶対に売らないということである。
 そんなことがセールスポイントになるのは、まず、ほかの英語教科書の教師用指導書は入手可能だからである。
 教師用指導書が外部に流出している教科書の場合、塾や家庭教師が指導書を手に入れれば、高校側は定期試験の問題作成にあたって、「評価問題例」あるいは「問題作成例」などという名前で掲載されているものをそのまま流用できない。塾や家庭教師を通じて、評価問題例を試験前に解いている生徒もいるからである。ところが、作問能力に欠ける教師にとって、自力でテスト範囲から問題を作るのは、面倒この上ないし、苦痛であるし、そんな暇もない。
 ところが、文英堂のUNICORNの場合、営業戦略の一環として、教師以外には売らないという方針で、教師以外の者にUNICORNの教師用指導書を販売した教科書販売店に対して訴訟まで起こしている。それほど、外部に流出しないようにしている。
 もしも、文英堂の営業の言うように、教師以外に教師用指導書を入手する者がいないとすれば、問題作成例をそのまま複写すればよい。これは楽だ(同時に、楽だけど、自分の授業を生徒がどれだけ消化・吸収したかが判断しづらくなるから愉(たの)しくないと思うのだが)。

 そういうことから、英語の教師のレベルの高くない高校では、UNICORNを採用して、教師は指導書の問題作成例をそのまま流用している(もちろん、UNICORNを使っているが、ちゃんとした授業を行ない、定期試験の問題も生徒のレベルに合わせて作成している立派な高校も知っている)。

 文英堂の営業戦略によって、UNICORNを採用する高校は、英語の教師にやる気がない場合が少なくないという印象を抱いている。
 やる気のない教師にとってのメリットを考えてみよう。

(1) 指導書が流出していないから、定期試験では問題作成例を丸写しできる
(2) 指導書が流出していないから、いい加減な授業であっても、その教師が読み上げる訳を聞かなくてはならない。授業技術の乏しい教師に生徒が反抗できない

 以上のことがあるので、高校受験の偏差値が65くらいから下の高校で、UNICORNを使っているところには、一抹のいかがわしさを感じている。
 いい加減な教師の授業なら、生徒は聞かなくなるものだが、訳は聞かないわけにはいかないから、我慢して聞くしかない。つまり、UNICORNをめぐる文英堂の方針は、駄目教師にとって最高なのである。
 ところが、ウェブで教科書の訳を掲載する例が増えているし、途中の訳まで載せて、レッスン1つにつき幾許(いくばく)かの金額で販売しているところもある。
 無料閲覧できる状態でも、有料で販売しているところでも、文英堂がクレームをつけるらしい。訳がわかれば、授業は聞かないという生徒がいなくもないから、訳を公開されると、教師の授業を聞かない生徒が増える。それを防ぐために、クレームをつけているようだ。
 「文英堂(Unicornの出版社)から指摘を受けたので、サイト上での和訳の公開を取りやめます」という文言とともに掲載をやめたサイトがあるそうだ。そうした事例が複数あるらしいから、文英堂も徹底している。ただし、有料で販売する場合には、使用料を支払わなければならないから、有料で販売している者に対して文英堂がクレームをつけるのは、当然の行為である。
 一方、著作権法第35条によれば、営利を目的としない団体が無料の授業をインターネット上で行なう場合には、公表された著作物を複製できる。ということは、営利を目的としない団体が、教科書の英文とともに、その解説を無料で行なうことは、合法的な行為となる。
 どこか、そんなことをUNICORNでする人がいたら、おもしろいのにと思っている。

 なお、UNICORNにかぎらず、教師用指導書の問題作成例をそのまま複写して定期試験に使っている高校は少なくない。当校開校以前に勤めたことのある塾・予備校では、定期試験の問題を見れば、問題作成者が自分で作ったものか、指導書の問題作成例を複写したものなのかは、だいたいわかるので、見当をつけた高校の使用教科書の指導書を経営者・上司(教室長)に依頼して購入してもらい、コピーを生徒に配っていた。問題作成例をそのまま使っている高校は意外と多い。英語の苦手な生徒でも90点台がとれるし、苦手でない生徒だと満点がとれてしまう。
 なお、ほとんどが自作の試験問題の場合でも、発音問題とアクセント問題だけは指導書の作成例を丸写しする教員は、異常に多い。理由は不明だが、たぶん、音声学などをきちんと勉強した教員が少ないからなのではないかと推測している。
 指導書の作成例を解くだけで定期試験で高得点をあげても意味はない。大学受験の一般入試での得点力の養成にはならない。そんなやり方で内申点をあげて、指定校推薦で大学に進学しても、必ず、落ちこぼれる。TOEICのの点数が低いと、難関大学の学生でも採用しないという一流企業は少なくないから、指導書の問題作成例を入手することで定期試験での得点だけを稼(かせ)いでも意味がない。実力をつけるしかない。

追記:UNICORN ENGLISH COURSE Iクリックすると対訳のあるところに飛ぶよ。

  

「そのユニコーン、ちゃうやろ」というツッコミが聞こえるような気がする。

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和歌山県, Japan
早稲田大学第一文学部哲学科哲学専修卒業、「優」が8割以上で、全体の3分の2以上がA+という驚異的な成績でした。大叔父は競争率180倍の陸軍飛行学校第1期生で、主席合格・主席卒業にして、陸軍大臣賞を受賞している。いわゆる銀時計組であり、「キ61(三式戦闘機飛燕)の神様」と呼ばれた男である。苗字と家紋は紀州の殿様から授かったものである。

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